来 歴

女の形

早く返してください
ほんとうの私自身などと
大きな声をはり上げて言うな

鏡の中をのぞきこんだあとで
うしろ手にドアをしめて出て行く
指の関節を曲げたりのばしたり
思い出したように空を見ることがある
白い布地をたんねんによごすか
よごれない前に洗うかしているうちに
女の形に作られているのに気がつく

ああいやだなどと
理屈の外側へ
自分を押し出すな

毎日つめたい足の裏から
少しずつ中味をこぼして行く
底まですっかり干からびてしまうと
何もかも忘れたふりをして笑うだけ
香水まみれの数字をまき散らしてみる
何度やりなおしたところで
満足な答えは出てくるはずがない
自分の重さを
荷物のようにして
誰かの腕の中へ投げ出すな

だから日常の階段半ばで
不器用につまずいてばかりいる
つながれた綱がえがく
円周の上を狂ったように走り
何かを求めているようなつもりになる
やがては追いたてられる
家畜の目になっているのに気がつく
どうせならそうなのだからと
甘ったれた昔の歌に
うっとりと目をつぶったりするな

はみ出している分も足りない分も
同じ調子にならされて
複雑な図式にしばりつけられるのを
黙って見ている手はないのだ
闇にまぎれ込む前に
手早く呼吸をととのえるのだ
白い道をきっぱり引いてしまうことだ

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